前回は、2018年9月に発売された車載用ゼロドリフトオペアンプ「S-19630AB」の特長と、自動車のトランスミッション内への適用例を紹介した。S-19630ABは、オフセット電圧を最大50μV、温度依存性(ドリフト)を25nV/℃に抑える機能を内蔵。現在のトランスミッションなどの油圧制御部分に使われているバイポーラアンプをこのS-19630ABで置き換えることで、その精度を10倍から100倍改善できる。
ところで、自動車内では、前回紹介したトランスミッション以外にも様々な部分で油圧制御が行われている。図1に示すように、エンジン部には、ガソリンをスパークさせるために必要な空気を取り込む呼気バルブや排気ガスを排出するための排気バルブがあるが、この開閉タイミングをコントロールする呼気排気バルブタイミング制御システムにも、油圧が使われる。ここで高精度な処理を行うことで、燃料消費やエンジン出力性能を向上させ、排気ガス中の窒素酸化物を低減することができるのだ。また、四輪駆動車に搭載される電子制御4WDシステムでは、ドライバーからの操作や、様々なセンサーからの情報を基に、タイヤの駆動方法を切り替える。この情報伝達も油圧制御で行っている。そして、これらの油圧制御を行うためには、圧力センサーからの情報が不可欠となる。
つまり、自動車はセンサーと油圧制御の塊なのだ。そしてその油圧制御回路には、必ず、アンプ、プリアンプ、ADコンバータなどが搭載されている。車載用アンプを、それらセンサ―などとまとめてキット化すれば、そのまま使えるソリューションとして提供できるようになる(図2)。開発者が現在使用しているプロセッサーとそのままつながれば、置き換えはさらに簡単になる。「S-19630AB」の進化形の一つとして、こうしたキット化もスコープに入れておきたい。
ところでS-19630ABには、もう一つの特長がある。 動作電圧が36.0Vまでと、従来製品( S-19610AB/S-19611AB)の5.5Vから大幅に広がり、電気自動車(EV)やハイブリッドカー(HEV)を考慮した仕様になっていることだ(図3)。今後のEV化を見据え、更なる高耐圧化を行うことで、エイブリックの車載用オペアンプは、自動車の進化に確実に追従していくだろう。
車載用オペアンプの今後の展開をまとめると図4のようになる。アンプ自身を更に高性能化することで、EV車などの新市場でシェアを拡大しつつ、センサーとのキット化で、従来の自動車市場の油圧制御回路も次々に置き換え、高精度化推進に貢献する。このアプローチは、もちろん汎用分野にも適用可能だ。
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