今回は、2018年9月7日に販売が開始された車載用ゼロドリフトCMOSオペアンプ「S-19630AB」を紹介したい。ゼロドリフトアンプとは、アンプ自身のもつオフセット電圧を常に監視し、ゼロになるよう調整する機能を持つオペアンプである。アンプのプラス入力端子とマイナス入力端子間の電位差が0Vの際にも出力されてしまう電圧を入力換算したものがオフセット電圧で、「S-19630AB」はこのオフセット電圧を、最大でも50μV、その温度依存性(ドリフト)を25nV/℃に抑え、なおかつ、125℃で動作し、250μAの低消費電流を実現する。図1/表1は、その外観と主な仕様をまとめたものである。
動作電源電圧範囲 | 4.0~36.0V |
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入力オフセット電圧 | ±10μV typ. ±50μV max. |
入力オフセット電圧ドリフト | ±25nV/℃ typ. ±120nV/℃ max. (VDD=30.0V) |
動作温度範囲 | Ta=-40~+125℃ (Tj=+150℃ max.) |
では、このアンプは自動車のどこでどう使われ、どのような効果を表すのか。トランスミッションを例に見てみよう。トランスミッション(変速機)は、簡単に言えば、エンジンからの動力を回転数や回転方向を変えて車輪に伝える部品だ。図2のように、エンジンからクラッチを介して伝えられる回転数などの情報を基に、トランスミッション内の油圧制御回路で油圧を調節し、ギアの切り替えを行い、車輪にまで伝達する。この油圧制御回路の部品の一つに、油圧回路の流れを切り替えるソレノイドバルブがある。
図3はこのソレノイドバルブとその周辺回路を示すものである。ソレノイド電流設定値が入力されると、回路内では、それと一致したソレノイド電流を流すための制御を行う。このソレノイド電流を高精度に制御できると、ソレノイドバルブの油圧制御を高精度で行うことができ、クラッチなどのメカニカルな動きも自在に制御できるようになる。つまり、理想的なギア切り替えが可能となり、快適、かつ低燃費な運転をサポートできるようになるのだ。
ところで、このソレノイド電流検出抵抗は、発生する電圧が小さい(数10mVレベル)ことから、高精度のアンプが必要となる。従来は比較的オフセット電圧が低いとされるバイポーラアンプが使われていたが、ここで、冒頭で紹介した「S-19630AB」を採用することで、より高精度の制御が可能となる。図4左は 「S-19630AB」とバイポーラアンプのオフセット電圧の比較、右は、オフセット電圧を出荷工程にてメモリに保存し補正するトリミングを行ったアンプも含めたオフセット電圧ドリフトの比較である。どちらも「S-19630AB」では、従来のバイポーラアンプに比べ約100倍性能が改善されている。つまり、「S-19630AB」を使えば、従来の課題であった、電源電圧変化や温度変化により発生するオフセット電圧をより小さく抑えることができ、より高い精度で自動車のトランスミッション制御ができるようになるのだ。また、従来、バイポーラアンプとメモリを使って行っていたキャリブレーションが必要なくなるため、補正の手間もなくなり、部品点数が減り、BOM面積も低下する。
この他にも自動車では、様々な場所でソレノイドバルブが使われている。また、「S-19630AB」は上記以外にもこれまでのCMOSオペアンプにはなかった特長を備えている。次回は、「S-19630AB」の自動車分野での更なるユースケースと今後の展開について考えていきたい。
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- 車載用 125°C動作 低入力オフセット電圧 CMOSオペアンプ S-19630A