前回は、エイブリックの医療機器用ICについて、その実績を紹介し、医療分野での今後の展開について考えた。今回は、超音波送信ICとして優れた性能を持つこの製品の、医療分野以外での可能性について考えてみたい。
それには2つのアプローチが考えられる。1つめは、医療機器の部分を人体認識が必要な装置に置き換える方法。2つめは、認識対象を人ではなく、物に置き換える方法だ。
人の存在を検知する必要があるものとしては、図1のような、イベント会場や駅などの入場ゲートの入退場管理機能や、自動車内で人の気配を検知してシートベルトの装着状況やエアバッグ機能準備状態を確認するなどに使用する乗員検知機能、自動販売機で推奨商品を表示するための購入者認識機能などがある。
認識対象が人ではなく物になったときはどうだろうか。既に、非破壊検査や、掃除用ロボットその他のロボティクス、ドローンなどで超音波センサーが使われている。この他にも、図2のように、機械のアクチュエーター制御、自動車の自動運転アシスト、駐車アシスト、電気自動車の自動給電アシスト、魚群探知などへの適用などが考えられる。
駐車アシストについては、既に画像認識によるものが製品化されているが、カメラ画像を駆使したこのシステムは大量の電力を消費するため、一部高級車には搭載可能でも、一般車への設置は難しい。こうしたクラスには超音波による省電力なアシスト機能を提供するなどのすみ分けも考える必要があるだろう。
省電力で安価となれば、今後、自動車の全方位への設置についても検討が進むかもしれない。自動給電システムなども、電磁波を利用したシステムでは、充電時間は早いが指向性が高く、ずれが発生すると充電効率が著しく下がるという問題点がある。超音波は、充電時間は多少かかるが指向性は低い。こうした性質を理解した上で、超音波による制御が適した現場への適用を進めていくべきだろう。
医療機器用ICを他分野に応用する際の利点として、その高い信頼性、安全性が挙げられる。5V電源だけで動作する200V高電圧アナログスイッチと、利用可能な電力に合わせて任意波形と矩形波を選択可能な超音波出力ICが「医療品質」で用意されているため、そのままシステムに組み込むだけで、高信頼性、高品質の製品を開発できる。また、現在、400Vの高電圧化や更なる微細化も進められており、この電圧範囲で動作するシステムの品質改善や小型化を支援する超音波送信ICとして、こちらも様々な分野への転用が期待できる。以上、前回紹介したIoT化も含め、エイブリックの医療機器用ICの今後の展開を図にすると、図3のような3つの方向性が見えてくる。どれも成長が期待できる分野だ。
最後に、もう一つだけ、エイブリックの取り組みを紹介したい。先ほど魚群探知機の超音波送信部分に医療機器用ICを転用する案を紹介したが、現在の魚群探知機は大量のディスクリート部品で出来ている。こうしたディスクリート部品を集積化すれば、小型化はもちろん、省電力化、品質安定化、信頼性向上などの効果をもたらす(図4)。
エイブリックでは、こうしたディスクリート製品の集積化についても地道な努力を続けている。
身近に、ディスクリート部品満載のシステムがあれば、ぜひエイブリックでのワンチップ化をご検討いただきたい。