今回は、エイブリック株式会社の超高効率スイッチングレギュレータ「S-85S1Pシリーズ」、CMOSボルテージレギュレータ「S-1740/1741シリーズ」に搭載の新機能「電源分圧出力機能」について紹介したい。
電源電圧の安定供給にはレギュレータが不可欠だが、加えて、電池駆動の製品、特に携帯型のウェアラブル製品やIoT製品などでは、その電池残量の把握も重要だ。従来の各社レギュレータにはこの電源監視機能が搭載されておらず、外付け回路で電源電圧を分圧して監視を行っていた(図1: 従来回路)。
新機能「電源分圧出力機能」によるバッテリ電圧監視方法 (S-85S1Pの例)
この電源監視機能をレギュレータチップ内部に取り込んだものが、冒頭の「電源分圧出力機能内蔵レギュレータ」 である。図1:本ICを使用した回路 のように、電源からの入力電圧を分圧し、バッファを介して出力する「電源分圧出力」機能をレギュレータに内蔵し、その出力をマイコンのADC端子に入力することで電源監視を可能にする。従来の外部回路で抵抗をつなげて分圧を行う際の悩みの種であった抵抗のばらつきやADC端子の入力インピーダンスを原因とするずれなどの問題を解決。監視精度が高まり、レギュレータと1チップ化したことで実装面積縮小、電力性能も改善する(図2)。一鳥三石ともいえるこの機能は、実は、エイブリック内部ではなく、九州発のベンチャー企業、Braveridgeからの要望によるものだった。
- 高精度化:抵抗のばらつきやADC端子入力時の精度劣化なし
- 小型化:外付け部品(分圧抵抗やON/OFFの為のスイッチ)が不要で省スペース化
- 電力性能改善:内蔵電源分圧回路の自己消費電流は標準値280nAと 超低消費
Braveridgeは、BLE(Bluetooth Low Energy)、 LoRaWAN、SIGFOX(注)などの無線通信技術を使った通信機器、IoTデバイスの開発・製造を行う会社である。これら通信規格のIoT機器を開発するにあたっては、低消費電力、かつ、長期の電池駆動を可能にする電源管理機能が不可欠だ。もちろん携帯時の利便性を考えれば、可能な限り小型であってほしい。こうした要望をかなえたのが、今回の電源分圧出力機能内蔵レギュレータだったのだ。図3は実際に「S-85S1P」が搭載されたBraveridgeのHuman Trackerである。
いうまでもなく、ベンチャー企業には十分な資金がない。また人員が限られているため、ある分野の技術に優れてはいても、多様な技術を有するとは言い難い。しかし、作りたいもの、やりたいこと、思いは人一倍持っている彼らの頭の中はアイディアの宝庫だ。今回のエイブリックの取り組みは、こうしたベンチャーをお金だけでなく技術面から支え、育成するものだといえる。エイブリックは、ベンチャー企業を支援することで、日本の新たなものづくりへの投資を行っているのだ。
ただ一方的に支援しているのではない。若い企業のフレッシュなアイディアを取り込むことで、従来の社内で検討したユースケースを基に製品開発を行う“プロダクトアウト”から、実際の現場の要望を製品化する“マーケットイン”にベクトル変換し、従来の手法では生まれ得なかった、よりユーザーの使い勝手も開発効率もコスト効率さえもよい製品を誕生させたのだ。ベンチャーと歴史ある企業、まさに日本の新旧組織がその良さを活かしあって生まれた製品だといえる。
次回は、こうして誕生した電源分圧出力機能内蔵レギュレータの今後の展開について考えてみたい。
注:LoRaWAN、SIGFOX…LPWA(Low Power Wide Area、低消費電力で広範囲な通信を実現する無線通信技術)を実現する規格の一種。どちらも免許不要周波数帯を使用する。
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- 超高効率スイッチングレギュレータ S-85S1Pシリーズ
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