前回は、在庫期間の製品未使用時に、電池パックの放電を禁止すると同時に、S-82B1Bシリーズ自身の消費電流を低減することで電池を深放電から保護する「パワーセービング機能」付電池保護IC、S-82B1Bシリーズを紹介した。このパワーセービング機能を使用することで、S-82B1Bシリーズは、25mAhの小型電池でも、電池容量30%から電池残量0になるまでの期間を17年と、従来製品S-8240Aシリーズの30倍、他社製品の60倍の長期化が実現できる(図1)。
前回説明したように、電池残量0になった後、さらに放電が進むと深放電に至る。この深放電に至った電池の内部では何が起こるのだろうか。
リチウムイオン電池では、深放電に至ると、負極の電位が急上昇する。銅の溶解析出電位も超えて上昇すると、負極に使われている銅箔がイオンとなって電解液中に溶出し、負極の変質が始まる(図2の①)。溶出した銅イオンが電解液中を移動し、正極にも流れると、正極側でも銅が析出する現象が始まるほか(図2の②)、析出した銅を介して内部ショートが発生し、電池として機能しなくなる(図2の③)。この状態で充電を行うと、発熱や発火してしまう事故につながる恐れがある。
つまり、深放電に至った後は、電池の安全性に関わるレベルの劣化が進むのだ。そして電池の安全性は、それを搭載する製品の安全性に直結する。
ところで、S-82B1Bシリーズがターゲットとする小型電池はどのような製品に使われているのだろうか。
図3は、弊社市場調査レポートで扱った様々な製品の中から、数10mAhから800mAhまでの比較的容量の少ない電池を搭載するものを抽出し、分野ごとに色分けして容量別に並べてみたものだ。小型ドローン、ドライブレコーダー、カメラ、小型スマートフォンなどと共に、ウェアラブル製品が、100mAh以下の低容量領域を独占する形で並んでいる。
ウェアラブル製品は、その名の通り、耳や腕など、人体に直接触れる状態で長時間稼働する。今後の超高齢化社会に向けて、健康管理や見守りを目的にウェアラブル製品がさらに普及すれば、常時稼動性と更なる安心、安全を求められるようになるだろう。電池にも高い安全性が必要となる。
S-82B1Bシリーズは、こうした市場要求に、パワーセービング機能による電池残量0になるまでの期間の長期化の実現で応える。パワーセービング機能の導入にあたっては、検査項目追加などにより、工数が増えることは否めないが、それと引き換えに製品全体の安全性が向上するのだ。そういった意味でS-82B1Bシリーズは、もはや「電池保護IC」の枠を超え、製品全体の安心、安全を担う「セーフティIC」と位置付けてもよいかもしれない(図4)。
関連情報
- 【アプリケーション】スマートウォッチ・スマートバンドに最適なIC
- 【製品情報/データシート】パワーセービング機能付き 1セル用バッテリー保護IC S-82B1Bシリーズ