今回は、超高効率スイッチングレギュレータ「S-85M0A/ S-85M1A」を取り上げる。超高効率スイッチングレギュレータについては、既に本コラムの第3回、第4回にて、電源分圧出力機能を搭載した「S-85S1P」を紹介しているが、今回の「S-85M0A/ S-85M1A」ではパッケージにWLP(Wafer Level Package、ウェハー状態のままパッケージ処理を行う。ボンディングワイヤーによる内部配線などを行わないため、最小レベルのパッケージを実現できる)を採用。ウェアラブルやIoT市場に向け、更なる小型化、薄型化を実現した製品となっている。表1はS-85M0Aと海外を含む競合のコイル一体型製品との実装面積を比較したものである。S-85M0Aはコイル外付け製品だが、外付け部品を含むトータル面積で、他社のコイル一体型製品を抜きん出るサイズを実現していることがわかるだろう。また、コイルが外付けであることから、 IC自体の薄さに加えて、顧客要求に応じた薄型コイルの提案も可能となる。
S-85M0A | A社 | B社 | C社 | |
IC等のサイズ | 2.0 × 1.6 × t1.0 (mm) |
2.9 × 2.3 × t1.1 (mm) |
2.0 × 2.5 × t1.04 (mm) |
|
外付け部品含む トータル面積(注) |
2.7 × 1.6 = 4.3 mm2 |
2.6 × 2.5 = 6.5 mm2 |
2.9 × 2.3 = 6.7 mm2 |
3.5 × 2.9 = 10.2 mm2 |
注)S-85M0Aはコイル外付け製品。A社、B社、C社はコイル一体型製品
表1 他社製品との比較(実装面積)
「S-85M0A/ S-85M1A」のもう一つの特長は、低EMI(Electro-Magnetic Interference、電磁妨害)であることだ。WLPパッケージにしたことで、ボンディングワイヤーによるEMIも回避できるようになった。図1は、S-85M0Aを搭載したデモボード近傍の磁界分布を測定した結果を示している。800MHz~1GHz、1GHz~2GHzと高周波数帯になるにつれて、それ以下の周波数帯での結果に比べ、周囲への電磁波ノイズが抑制されていくことが確認できる。この結果から、1~2GHz付近の周波数帯、具体的にはLPWAN向けのSub-GHz帯やGPS信号などに使われる1GHz以上の周波数帯で、アプリケーション低ノイズ化への貢献が期待できる。
静止時消費電流については、S-85S1P同様、260nAを実現しており、業界トップクラスの値となっている。また効率の面から見ても、図2のオレンジ色で囲んだ部分が示すように、出力電流1mA以下の場合の性能が従来品から著しく改善。赤線が示すように、負荷電流100μA時にも90.5%の高効率を実現し、バッテリー寿命の長期化を強力にサポートするものとなっている。
以上のように、「S-85M0A/ S-85M1A」は、業界トップレベルの小型化、薄型化を実現するとともに、その過程でWLPパッケージを採用したことで、IoT機器などで使用される中~高周波数帯での低ノイズ化も可能にした。こうした特長に加え、超低消費電流、高効率な処理を行うこの電源ICは、今後の本格的な各種業界のIoT化に不可欠な要素を存分に満たす製品だといえる。
次回は、この製品をいちはやく顧客へ、IoT機器開発現場へ届ける方法について、考えてみたい。