目次
1. 磁気センサとは
磁気センサとは、一般的に磁界の大きさや変化量を電気信号として変換するものです。
地球の磁界 (地磁気) や磁石に代表されるように、磁界は目に見えないながらも非常に身近な存在です。見えない磁界を電気信号へ変換し、見えるカタチにする磁気センサは永きにわたり研究が行われています。
古くは電磁誘導の効果を用いたセンサから始まり、電流磁気効果や磁気抵抗効果、ジョセフソン効果などの物理現象をさまざまな形でセンサへ応用し、実用化されています。
2. 代表的な磁気センサの種類と用途
今日ではさまざまな物理効果を活用したセンサが実用化されていますが、ここでは広く一般的に使用されている磁気センサの種類と主な用途について説明します。
① コイル
今回紹介する磁気センサの中でもっとも古典的でシンプルな方式がコイルです。
コイル単体では磁界を直接検出することはできませんが、磁界の変化を検出することができます。
コイルに磁石を近づけるとコイル内の磁束密度が増加します。そして、コイル内には増加した磁束密度を妨げるような誘導起電力および誘導電流が発生します。コイルの動きがなくなると、磁束密度の変化もなくなるため、誘導起電力および誘導電流は発生しなくなります。
この誘導起電力や誘導電流を観測することで、磁束密度の変化の割合や向きを検出することができます。
単体では限られた性能しか発揮することができませんが、複数のコイルや磁性材料を組み合わせることで、高感度な磁気センサを実現することができます。
現在ではコイルを応用した磁気センサとしてサーチコイルのほか、回転角度センサとしてレゾルバが、多用途にわたる磁気センサとしてフラックスゲート型センサなどが使用されています。
② リードスイッチ
ニッケルなどの磁性体を左右から1枚ずつガラス管内で隙間を空けた状態で封止したものがリードスイッチです。ガラス管の中は、接点の活性化 (劣化) を防ぐために窒素などの不活性ガスが充填されています。
リードスイッチは通常はオープンの状態 (開放状態) ですが、両端の磁性体に沿って磁界を受けると、磁性体が磁化し、接点部分が引き寄せられることで電気的にクローズ状態 (導通状態) になります。
コイルを磁界の発生源として使用し、リードスイッチと一体化したものはリードリレーと呼ばれ、産業機器などで広く使用されています。
また、後述するMRセンサ素子やホール素子を活用した半導体センサとは異なり、リードスイッチは無電源で動作可能なため、電源確保の難しい自動車内のスイッチなどでも多く使用されています。
③ MRセンサ素子
MRセンサ素子は磁気抵抗効果 (MR効果) を応用した磁気センサ素子です。原理の違いによりいくつかのMRセンサ素子がありますが、基本となるMR効果について説明します。
MR効果とは、磁界を変化させると抵抗値が変化する現象のことです。MR効果は、磁性体 (例えば鉄やニッケル、コバルトなど) に見られる現象です。
MR効果について理解するには電子のスピンによるものであることと、電子の電荷によりローレンツ力が働くことを理解しておく必要があります。
電子が強磁性体 (ある一定の磁化を持つ物質) の中を移動するときに、電子のスピンが上下すると、磁化された物質内での散乱確率が高くなったり低くなったりします。これがMR効果を引き起こす原因です。
電子は、電荷とスピンという2つの重要なパラメータを持っています。電子はすべて同じマイナスの電荷を持っていますが、電子のスピンにはアップスピンとダウンスピンがあります。電子のスピンは1922年に実験的に証明され、電子には固有の角運動量と磁気モーメントがあることが確認されました。
電子が導電性物質の中を進むとき、電子は散乱すること (電子散乱) があります。電子散乱とは、物質内の静電気力によって、電子が正常な軌道から外れる現象のことです。
ローレンツ力は、導電性物質中の電荷を持った移動粒子(電子)に磁界をかけたときに現れる力で、この力は、電荷を持つすべての粒子に作用し、電子のスピンには依存しません。
・AMRセンサ素子
1856年にWilliam Thomsonによって発見された異方性磁気抵抗効果 (AMR効果) は、強磁性体を外部磁界環境におくことで観測できます。
強磁性体の磁化方向が電流に対して平行な場合は、電子軌道が電流に対して垂直になるため抵抗値が最大となります。そしてスピンによる拡散が増加し、電気抵抗が大きくなります。
一方で磁化方向が電流に対して垂直な場合は、電子軌道が電流に対して水平になり、スピンによる散乱が減少し、電気抵抗が小さくなります。
この磁界の状態によって抵抗値が変化する割合を磁気抵抗比 (MR比) と呼びますが、AMRセンサ素子のMR比は通常約5%程度です。AMRセンサ素子は、構造が簡便という特長を活かして、磁気スイッチや回転センサなどで多く使用されています。
・GMRセンサ素子
1988年にAlbert FertとPeter Grünburgそれぞれが同時に発見した巨大磁気抵抗効果 (GMR効果) は、導電性の強磁性体で非磁性の導電体薄膜をサンドイッチした薄膜構造で観測できます。
それぞれの強磁性体層の磁化は接合部分を進む電子のスピンによる散乱に影響を受けます。
強磁性層を進む電子は、そのスピンの方向が材料の磁化と逆の場合、磁化と平行な場合よりもはるかに弱く相互作用します。
これにより上下の強磁性体の磁化方向が平行な場合は導電体の界面に沿って流れる電流の抵抗値が低くなり、反平行の場合は抵抗値が高くなります。
GMRセンサ素子はGMR効果を応用した磁気センサ素子で、AMRセンサ素子と比較し数倍 (2~5倍) の磁気感度を実現しています。これにより従来よりも小さな磁束密度の変化を捉えることが可能となり、コイルに代わりハードディスクドライブの読み取りヘッドに用いることで、読み取りヘッドの小型化、かつ高感度化を実現しました。これによりハードディスクの記憶密度が大幅に向上し、ハードディスクの記憶容量を大きくすることに貢献しました。
GMRセンサ素子のMR比は、通常約20%程度です。
GMRセンサ素子は高感度な特長を活かして、磁気ヘッドや回転センサなどで使用されています。
・TMRセンサ素子
室温でのトンネル磁気抵抗効果 (TMR効果) は1995年に東北大学の宮崎照宣氏によって発見されました。TMRセンサ素子は、TMR効果を応用した磁気センサ素子で、数ナノメートルレベルの極めて薄い非磁性の絶縁膜を2枚の強磁性膜でサンドイッチした構造になっています。電子はこの絶縁膜を透過して (トンネルして)、磁性膜からもう一方の磁性膜へ移動することができます。これは量子力学に基づく現象です。
2枚の磁性体の磁化の向きが平行の時は抵抗値が小さくなり、反平行の時は抵抗値が大きくなります。
実用的なMR比 (磁界の状態によって抵抗値が変化する割合) は100%を超え、1000%を超える研究事例もあります。
TMRセンサ素子は非常に高感度な特長を活かして、ハードディスクの磁気ヘッドや高精度回転角センサなどで使用されています。
④ ホール素子
ホール素子はホール効果 (Hall Effect) を応用したセンサです。1879年にEdwin H. Hallにより発見されたホール効果とは、ローレンツ力により、電流と磁界の向きに対して直交方向の電圧が発生することです。この電圧をホール電圧と呼び、フレミング左手の法則から、磁束の向きによって電圧の向きが変わります。電圧の大きさと向き (プラス、マイナス) によって磁界の大きさと向き (N極、S極) の検知が可能です。
ホール素子の磁気感度は磁気抵抗センサ素子に及ばないものの、磁性体を用いない磁気センサのため、強磁界環境や過酷な環境でも使用可能なことから電流センサや様々な磁気スイッチなどで使用されています。
≫さらに詳しく「ホールICとは?」
⑤ SQUID
超伝導粒子干渉素子 (SQUID: Superconducting Quantum Interference Device) はジョセフソン効果を応用した極めて微弱な磁界測定を可能にした磁気センサ素子です。Brian D. Josephsonが1962年に提唱したジョセフソン接合とリング状超伝導体からなるSQUIDは現在実用化されているもっとも感度の高い磁気センサです。
他の磁気センサ素子では検出が難しい、人体の心磁界や脳磁界を効果的に検出することができます。
3. エイブリックの磁気センサ
エイブリックは現在、シリコン製のホール素子と信号処理回路と一体化したホールICを量産しています。
お使いの用途や環境に合わせた最適な製品をお選びいただけます。
エイブリックの磁気センサ |
ホールIC 一般用途 (小型・低消費) | 一般用途 (高速・高耐圧) ZCL | 車載用 |
安全、快適な社会の実現に向けてセンサ素子の特徴をABLICの技術で最大限活かし、磁気センサソリューションを提案、提供していきます。