日本のアナログ半導体のスペシャリストであるエイブリック株式会社は、これまで利用されていなかった環境エネルギーを利用するバッテリレスセンサの革新の最前線にいます。同社の画期的なCLEAN-Boost®技術は、エネルギー効率の高いワイヤレス・センシング・ソリューションの可能性を再定義しています。
CLEAN-Boost® 技術
エイブリックのCLEAN-Boost®技術は、エネルギー利用における大きな飛躍を意味し、かつては利用するには小さすぎると考えられていたマイクロワットレベルの環境エネルギーを取り込み、昇圧します。CLEAN-Boost®が極めて革新的なのは、超低消費電力用に設計されたエネルギーの蓄電・昇圧コンポーネントです。0.35Vの低電圧で動作する昇圧回路により、1μWレベルの電力を最適に使用することを保証します。さらに、発電と信号伝送のタイミングを最適化する洗練された低消費電力データ伝送方式を組み込み、効率をさらに高めています。
CLEAN-Boost®技術によりマイクロワットレベルのエネルギーが蓄電・昇圧され活用可能となる仕組み
イノベーションのルーツ
エイブリックはもともとセイコーインスツル株式会社の半導体部門でしたが、2016年にエスアイアイ・セミコンダクタ株式会社として営業を開始し、2018年に社名を「エイブリック株式会社」として新たにスタートしました。CLEAN-Boost®技術の起源は、セイコーが1998年に発売したサーモエレクトリック腕時計「サーミック」に遡ります。エイブリックは、熱電発電による最小限の電気出力を増幅できる集積回路(IC)を開発することで、このコンセプトを進化させました。この試みは、やがて立命館大学との共同開発による先進的な蓄電・昇圧回路の実現につながりました。
この共同研究は、永久電源ソリューションを実現する可能性が評価され、2019年10月に米国で開催されたIEEE S3S Conferenceで「最優秀論文賞」を受賞し、CLEAN-Boost®が革新的な技術であることの証となりました。
市場のアプリケーションに力を与える
市場におけるこの技術の代表的な例は、「バッテリレス漏水センサ」です。この独創的なデバイスは、わずかな水滴でも水漏れを検知することができるため、早期発見により被害を最小限に抑えることに貢献します。さらに、外部電源や複雑な配線を必要とせずに最小限のエネルギーを利用して電力を供給し警告を無線で送信することが可能なため、大規模な設置やメンテナンスに煩わされることなく、既存の構造物を改修するための理想的なソリューションとなっています。
ユースケースの 1 つは、日本の大手通信事業者である NTT 東日本における取り組みで、無人通信施設での自然災害を監視するという課題に対処するため「バッテリレス漏水センサ」採用したことです。エイブリックの「バッテリレス漏水センサ」を遠隔地監視に導入することで、保守員による悪天候時の巡回が不要となり、監視業務の安全性と効率が向上しました。
左)NTT東日本の無人通信施設 右)バッテリレス漏水センサ
CLEAN-Boost®は、漏水検知以外にも、水分発電センサや生物電気土壌センサなど、さまざまなアプリケーションに電力を供給しており、あらゆる環境に対応できる汎用性を実証しています。微生物による発電、酵素を利用した発電、バイオ電気化学反応に関する研究は、この技術の幅広い応用可能性をさらに示しています。生物学的プロセスを電気エネルギーに変換することで、CLEAN-Boost®は、乳酸、果糖、アルコールなどの物質の利用を含め、持続可能な発電の新たな可能性を追求しています。
マイクロワットレベルのエネルギーのフロンティアを探る
現在商品化されているのは日本市場ですが、エイブリックは将来的にCLEAN-Boost®技術をグローバルに展開することを確約しています。同社は、新たな用途や市場を開拓するためのパートナーシップを積極的に模索しており、不可能と思われる課題を実行可能な革新的ソリューションに変えるという使命を強調しています。
絶え間ないイノベーションを通じて、エイブリックは今日のための技術を創造するだけでなく、より持続可能でエネルギー効率の高い未来への道を切り開き、微量の環境エネルギーを利用することの実用的で変革的な可能性を実証しています。
本記事は2024年2月29日に海外メディア向けに配信したトピックスの日本語版です。
● 本件に関するお問い合わせはこちらまでお寄せください。