エレクトロニクスメディア「EE Times Japan」へ2024年1月11日付にて掲載されたエイブリック代表取締役社長・田中誠司の記事を詳しくご紹介します。
6年で高収益体質を実現 さらなる飛躍に向け欧州で攻勢をかけるエイブリック
エイブリックは、セイコーインスツルの半導体事業を前身とするアナログ半導体メーカーだ。セイコーインスツルから分社して2016年にエスアイアイ・セミコンダクタとして営業を開始した同社は、2018年に社名をエイブリックに変更。長年培ってきた「小型・低消費電力を実現する高度なアナログ技術」を駆使した製品の開発とターゲット市場の拡大を強化している。2023年6月にエイブリックの社長に就任した田中誠司氏に、2024年の事業戦略を聞いた。
「エイブリック」として6年が経過
―2018年に社名を「エイブリック」に変更して6年がたちました。この6年間を振り返っていかがですか。
田中誠司氏 親会社が変わるなど、環境が目まぐるしく変化した6年間だった。セイコーインスツルからアナログ半導体専業メーカーとして独立したことは、われわれにとって一体感を醸成する上でも大きなメリットをもたらした。社員は「エイブリック」のブランドに誇りを持って事業の発展に向け日々まい進している。
現在の親会社であるミネベアミツミは、8つの分野をコア事業に据える「8本槍(やり)戦略」を掲げており、アナログ半導体はその3番手になっている。半導体事業の位置付けはミネベアミツミの中で確実に上がっており、エイブリックが果たす役割も大きくなっていくだろう。エイブリックは、あらゆるレイヤーで世代交代が進むなど、将来にわたる事業基盤の強化が進んでいる。
―2023年6月に社長に就任されました。どのような戦略を打ち出していますか。
田中氏 最も重要な戦略として、高付加価値製品の開発力の強化を掲げている。その一環として、2023年4月にはグローバルフィールドで半導体設計を手掛けるSSCを統合した。高付加価値の製品を開発するには、アナログ技術だけでなく大規模論理・通信回路技術などの知見も必要になる。半導体設計について高度な知見と技術力を持つSSCの統合は、高付加価値製品の開発力を補完する上で重要なステップだった。
―SSCの統合は、どのような製品で相乗効果を発揮しそうですか。
田中氏 一例としてはバッテリー監視用アナログフロントエンド(AFE)ICが挙げられる。自動車や太陽光発電などで使われる大規模な蓄電池のAFEは集積度が高く、デジタル技術や通信技術、そして量産化の為のテスト技術など、エイブリックの保有技術だけでは十分に対応できなかった部分でもある。SSCの統合は、これら技術の開発スピードアップにつながり、新しい機能を備えた高付加価値なアナログ半導体の開発を加速できることになる。
―ここ数年で引き合いが強かった高付加価値製品について教えてください。
田中氏 超音波診断装置などに使われる、超音波送信ICがその一例だ。市場拡大が見込まれる医療機器用ICは、お客さまからも高く評価をいただいている。今後普及が期待されるポータブル超音波診断装置でも高解像度で、より的確な遠隔診断ができるよう、得意とする小型、低消費電力製品の創出に注力し、医療現場を支えていく。
また、車載用電源ICの引き合いも増えている。車載用に特化した電源ICは2009年ごろから本格的に展開し始め、継続的に新製品をリリースできるほど開発力が安定してきた。自動車の電動化により、車載用半導体の搭載数は増加の一途をたどっている。その成長市場に向けて、当社の車載用製品のラインアップは順調に増えている。さらなる成長を見据え、車載向け製品の開発を加速する。
車載用製品のラインアップ
―エイブリックの強みを、あらためてお聞かせください。
田中氏 技術面では、セイコー時代から培ってきた省電力技術や超小型パッケージ技術に強みがある。われわれのビジョンにある「Small、Smart、Simple」にも表現されているように、小型で低消費電力、使いやすいデバイスの開発はエイブリックが最も力を発揮できるところだ。品質にもこだわり抜き、誠実なお客さま対応を常に心掛けている。
エイブリックの歴史は、クオーツウオッチ用のCMOS ICを開発した半世紀前にさかのぼる。アナログ半導体メーカーとしての信頼性や市場実績についても自負している。
ターゲットを欧州に拡大 開発体制も強化
―2024年の主な事業戦略と、注力する製品をお聞かせください。
田中氏 まずは欧州での車載ビジネスを強化する。そのために、ドイツ自動車工業会(VDA)のプロセス監査である「VDA6.3」への対応を進め、機能安全規格であるISO 26262の開発プロセス認証も取得した。ドイツ・フランクフルトの拠点には営業担当やフィールドアプリケーションエンジニアも駐在しており、現地でも万全なサポート体制を構築している。その他、車載製品における当社ウェブサイトの情報充実に加え、必要なサンプルが短納期で入手できるようECサイトにおける製品の品ぞろえの拡大など、お客さまの要求に柔軟かつ迅速に対応できる環境を整えてきている。
車載用ICや医療機器用ICのほかに注力製品としては、バッテリレス漏水センサが挙げられる。これは当社独自のエナジーハーベスト技術「CLEAN-Boost🄬」を採用した製品で、電池を使わず水から発生する微小な電力を活用した画期的な無線漏水センサである。本センサは配管等に容易に後付けでき、設置したい場所にすぐに導入が可能なことから既存の工場やビルなどの採用実績が多い。2023年には、このセンサとの受信側システムを組み合わせたパッケージ商品の取り扱いも開始している。現在は日本国内のみの販売だが、今後は海外での展開も検討している。
「CLEAN-Boost🄬」技術の動作原理 「CLEAN-Boost🄬」は、エイブリックの登録商標です。
―組織や設備投資については、いかがでしょうか。
田中氏 2023年に開発チームの組織体制を強化した。医療機器用ICの企画・開発の経験が豊富な人材を、開発全体を統括するCPO(Chief Product Officer)に据えた。CPOが持つ経験値を他の分野の企画・開発へ横展開し、お客さまとの共創を通した付加価値の高い商品開発を推進することが狙いだ。
製造については、前工程は自社工場に加えて外部ファウンドリーの活用も継続する。今後市場投入する新製品については、性能と消費電力の点で新しいプロセスが必要なケースもあるので、そこはファウンドリーの力を借りる。また、前工程・後工程の工場ともに、ことしから再生エネルギーを導入し、カーボンニュートラルへ取り組んでいく。
企業としての“筋肉”が付いた6年間
―2024年の業績や半導体の市況をどうみていますか。
田中氏 2023年から続いていた在庫調整が終わり、2024年はお客さまの需要が戻る可能性が高いとみている。半導体市場は冷え込みが一転し、需要が急増することも多い。お客さまのニーズを把握し、急な需要増にも対応できるようにウエハーの仕込みを含めてしっかりと準備している。
ミネベアミツミグループ全体で2029年3月期の営業利益2500億円を目指しており、エイブリックは半導体事業で大いに貢献していきたい。エイブリックとしては、高付加価値製品の開発や業務の効率化により、営業利益は2018年以降大きく増加し、さらなる成長を目指している。
エイブリックとして船出して6年が経過した今、製品群と組織の双方が強化され、市況に大きく左右されないビジネス基盤が整った。企業としての“筋肉”が付いたとも言えるだろう。この先も、欧州をはじめ、世界中のより多くのお客さまにエイブリック製品を提供し、持続可能な社会の実現、成長に向けて、力強く前進し続けたい。
本記事は2024年1月11日にEE Times Japanへ掲載されたものです。
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