目次
1. 磁気シミュレーションとは?
磁石から発生する磁気は肉眼で確認することができません。磁気シミュレーションは、どのような磁場がどれくらいの強度で発生しているのかを数値化し、見えない磁気を可視化するツールです。エイブリックの磁気シミュレーションはお客様がご検討の機構動作に合わせた磁気のイメージをグラフで表現します。
磁気センサICを使用したアプリケーション
磁気センサICを使用したアプリケーションの例として、以下のようなものがあります。
- ノートパソコンや携帯機器のカバーの開閉検知
- 窓の開閉などのスライド位置の検知
- 流量計などの回転体のカウントといった回転検知
- 加湿空気清浄機の給水タンクなどの水位検知 (位置検知)
- モータの回転制御 (回転検知)
このように、従来はリードスイッチや機械式スイッチが使用されていたアプリケーションに磁気センサICを使用するケースが増えてきています。すでに、自動車、産業機器、ホームオートメーション、電子製品など、さまざまなアプリケーションで磁気センサICが使用されています。
磁気センサICを使用するメリット
- 機械的な振動や衝撃に比較的強い
- 物理的な接点が存在しないため劣化がなく耐久性が高い
- 湿度や腐食に強い
- 小型パッケージでデザインを制約しない
- 応答性が高く、感度の選択範囲も多いためいろいろな検出方式に応用できる
- 超低消費電流の製品などもありバッテリー寿命に影響しない
なぜ磁気シミュレーションが必要なの?
アプリケーションの確実な機能実現のためには、磁気センサICの周辺磁界を考慮した機構設計が必要です。また、磁石の大きさや種類、配置を変更すると、磁気センサICが磁石を検知する位置が変わってしまうため、試作評価を繰り返すなど、多くの手間やコストが発生する可能性があります。
エイブリックの磁気シミュレーションサービスをご活用いただくことで、設計・試作回数・作業工数を減らし、目標の磁気特性と動作結果を短期間で確認することができます。
2. エイブリックの磁気シミュレーションサービス
エイブリックの磁気センサICをご使用されるお客様には、ご希望により磁気シミュレーションサービスをご提供しています。
シミュレーション結果により、簡易的な機構情報からおおまかな動作確認をしたり、3D CADデータによる複数個の磁石やICを使用した場合の複雑な動作の確認や周辺磁性体の影響を含めた詳細な動作確認ができます。
エイブリックは過去のサポート実績が多数あり、お客様がご検討中の検出、非検出動作を満足できなかった場合は、最適なICや磁石、実装位置などのご提案をいたします。
エイブリックの磁気シミュレーションサービスのご利用
磁気シミュレーションには、検出方式と使用する磁石、磁気センサIC、および磁石の位置などの機構情報が必要です。ご依頼には、以下の2つの方法があります。
Secondary Protection
複数の磁石や磁気センサICが存在する場合や、周囲に磁性材質 (例 : 鋼材) がある場合には、3D CADデータでのご依頼をおすすめします。3D CADデータでのご依頼に必要な情報は以下の通りです。
- 以下の形式の3D CADデータ
- STEP形式 (.step, .stp)
- Parasolid形式 (.x_t)
- 磁石に関する情報
- 磁石特性、着磁方向や可動域などの説明
- 磁石の特性や形状に関する追加情報 (必要に応じて)
- 周辺の鋼材に関する情報
- 鋼材の材質情報 (例 : SUS304, SUS430, SPCC, S45Cなど)
- 鋼材の形状や配置に関する追加情報 (必要に応じて)
機密情報が含まれる場合はNDA締結も可能です。詳しくは販売窓口にご相談ください。
シミュレーション結果サンプル
シミュレーションの結果は、磁気センサICのセンサ部の磁束密度曲線グラフ、動作点・復帰点*の位置 (角度) を以下のようなグラフを含めたレポートとしてご提供します。
磁気シミュレーション結果 (直線移動方式 (平行))
(Ta = 25°C)
項目 | シミュレーション結果 [mm] | |
---|---|---|
閉 → 開のときの移動距離 | BRPS Max. | 1.5 |
BRPS Typ. | 2.6 | |
BRPS Min. | 4.5 | |
開 → 閉のときの移動距離 | BOPS Max. | 1.3 |
BOPS Typ. | 1.9 | |
BOPS Min. | 3.8 |
*動作点 (BOP) : ICが磁気を検出したときの位置、角度
復帰点 (BRP) : ICが磁気を検出しなくなったときの位置、角度
通常、動作点と復帰点にはヒステリシスを設定しているため、動作点と復帰点はそれぞれ別の値になります。
3. シミュレーション実施例のご紹介
磁気センサICを利用した開閉検知
磁石によりふたの開閉を検知するデモ機 (図1) を用いた磁気シミュレーションの実施例をご紹介します。
依頼シートへの記載
太枠 内をご記入ください
磁石仕様
項目 | 内容 | 単位 |
---|---|---|
サイズ (D × W × T) | 10 × 8 × 4 | [mm] |
材料 (材質、メーカー名、型番) | ネオジム磁石 N52 | – |
残留磁束密度 Br* | 1450 | [mT] |
保磁力 Hcb | 979 | [kA/m] |
*本シミュレーションでは、磁石仕様の「残留磁束密度」を用います。「表面磁束密度」をご記入した場合、結果の精度が低下することがあります。
磁気センサIC仕様
IC型番 :
S-5718CCWL1-I4T1U 両極検知
(Ta = 25°C, VDD = 1.8V, VSS = 0V)
項目 | Min. | Typ. | Max. | 単位 | |
---|---|---|---|---|---|
動作点 | S極 BOPS | 1.6 | 3.0 | 4.0 | [mT] |
N極 BOPN | -4.0 | -3.0 | -1.6 | [mT] | |
復帰点 | S極 BRPS | 0.5 | 1.7 | 2.8 | [mT] |
N極 BRPN | -2.8 | -1.7 | -0.5 | [mT] | |
ヒステリシス幅 | S極 BHYSS | – | 1.3 | – | [mT] |
N極 BHYSN | – | 1.3 | – | [mT] |
機構情報
図2の左側がデモ機正面から見たICと磁石の位置関係、右側が側面から見たIC、 磁石、回転軸などの位置関係を表しています。
シミュレーションに必要な情報として太枠 内の数値を使用します。
●円移動方式 (角度)
シミュレーション結果
以下は依頼シートへの記載内容の情報を元にシミュレーションを実施した結果です。
磁気シミュレーション結果 (数値)
(Ta = 25°C)
項目 | シミュレーション結果 [deg] | |
---|---|---|
動作点 → 復帰点のときの角度 | BRP Min. | 11.4 |
BRP Typ. | 15.3 | |
BRP Max. | 25.6 | |
復帰点 → 動作点のときの角度 | BOP Min. | 8.7 |
BOP Typ. | 10.9 | |
BOP Max. | 15.9 |
磁気シミュレーション結果 (グラフ)
磁気シミュレーション結果 (まとめ)
復帰点 → 動作点 (ふたを閉じていくときに磁石を検出する角度) :
10.9° (typ.), 8.7 ~ 15.9°
動作点 → 復帰点 (ふたを開けていくときに検出状態から復帰する角度) :
15.3° (typ.), 11.4 ~ 25.6°
3> 4. シミュレーション結果を実機で検証する
図1のデモ機で、磁気センサICを利用した開閉検知のシミュレーション結果を検証しました。
図4はふたを閉じていったときの動作点を示しています。
- LEDが赤色点灯に変わったときのふたの角度 : 11.7°
- シミュレーション結果:8.7 ~ 15.9° (10.9° typ.)
図5はふたを開けていったときの復帰点を示しています。
- LEDが赤色点灯から緑色点灯に変わったときのふたの角度 : 14.8°
- シミュレーション結果 : 11.4 ~ 25.6° (15.3° typ.)
以上の結果より実測値はシミュレーションの結果内に入っており、typ.値にも近い値であることが確認できました。
(センサの感度、機構寸法のバラツキ、周辺磁性体の影響などがあるため、typ.値は参考値となります。)
5. エイブリックの磁気シミュレーションサービスを利用する
今回ご紹介した、ふたの開閉以外にも、磁気センサICと磁石が垂直に移動する動作や、リング型磁石の回転を検知する動作など、いろいろな検出動作に対応可能です。
本サービスのご利用、およびご不明な点がございましたら、販売窓口までお気軽にご相談ください。