1. なぜキャリブレーション工程が必要なのか
BLDCモータ (ブラシレスDCモータ) は、設計上、製造上のばらつきや公差を吸収するためにモータの製造工程に組立後の学習工程 (キャリブレーション工程) を設定していることがあります。
BLDCモータは多くの部品を組み合わせて構成されています。
これらの部品すべては設計上の公差、製造上の公差をもって生産されています。そのため、ロータ磁石の磁力の強さや、ホールICの磁気感度、ロータとホールICの距離は生産されるすべてのモータで一定とは限りません。
それ以外にもモータは仕事をすると発熱します。しかしながら、BLDCモータを構成する重要な要素である磁石は、高温になると磁力が低下する特性があります。そのため、回転位置を検出するホールICが受ける磁束密度も低下してしまいます。
これを個々のモータに対して最適化し、ばらつきの少ない特性を実現するために行われているのがキャリブレーション工程です。キャリブレーション工程では公差によって生じた検出位置のズレを確認し、以下のような調整を行います。
- ホールICが出力する信号とコイルに流す電流のタイミングの調整
- ホールICが実装されたセンサ基板の位置調整
- 進角、遅角調整
- 温度ごとに最適な電流値をテーブル上に設定する温度マッピングの実施
2. キャリブレーションの手間を低減させるための方法
このように手間のかかるキャリブレーション工程ですが、いくつかの方法で手間を軽くすることが可能です。
センサ基板上でホールICの端子の向きをロータの中心軸に向け、同一円周上に実装する
センサ基板に搭載するホールICは、時として実装性を優先して他の電子部品と同様0°、90°、180°、270°と90°おきの角度で実装することがあります。しかし、ロータの位置検知を行うホールICの実装方法としては最適ではありません。
なぜなら、電子部品を基板に実装するリフロー工程ではんだが溶け再凝固する際にホールICが端子のある辺に向かって移動する可能性があるからです。そのため90°おきの角度で実装してしまうとホールICのセンサ位置が検出したいモータの回転角度からずれてしまう可能性があります。
この位置ずれを考慮し、ホールICがより正確にロータの位置検知を行うためには、センサ基板上の3つのホールICの端子の向きをロータの中心軸に向けて実装します。この実装方法によってリフローによるホールICの位置ずれの影響を低減できます。
また、一般的な3端子のホールICの場合は、端子の多い2端子側に寄っていきます。2端子側がロータから発生する磁束密度がより大きくなる方向へ配置することができるとより安定した検出が可能です。
ロータの磁石の温度特性とホールICの磁気感度の温度特性を合わせる
ロータの磁石には一般的にフェライト磁石やネオジム磁石などが使われています。温度による検知位置のずれを防ぐためには、このフェライト磁石やネオジム磁石の温度特性に合わせたホールICを使用することです。
一般的にフェライト磁石は-0.18%/°C、ネオジム磁石は-0.12%/°Cの温度係数を持っているので、これに合わせた温度係数のホールIC*1を使用します。ただし、ほとんどのホールICは温度係数のデータは参考値であり保証値では無いため、生産上である程度のばらつきがあることに注意しなくてはいけません。
ZCL®ホールICを使用する
エイブリックが開発したBLDCモータ用のホールIC、ZCLホールICを使用するとキャリブレーションの手間を低減することができます。ZCL®ホールICは磁束密度が0mTを横切ったタイミングで出力する信号が切り替わるので、温度による磁石の特性変化の影響を受けずに同じタイミングで切り換えることができます。
さらにZCL®ホールICは磁束密度の大小によらず出力する信号の切り替わりタイミングは0mTを横切ったタイミングとなるため、同一円周上に実装する必要もありません。
このようにBLDCモータのキャリブレーション工程の手間を低減する方法は複数ありますが、ZCL®ホールICを使用することにより、より簡単にキャリブレーションの手間を低減することができます。
エイブリックはZCL®ホールICを車載用途向け、一般・産業用途向け、過酷な環境で使用される用途向けにご用意。
さらにそれぞれ2種類のパッケージが選択可能*2です。
*1: 2022年6月現在、エイブリックでは温度係数を定義したホールICのラインナップはありません。
*2: 過酷な環境で使用される用途向けのS-576Z RシリーズはTSOT-23-3Sパッケージのみのラインナップとなります。
ZCL®ホールICを試してみる
S-576Z Bシリーズ | S-576Z Rシリーズ (広動作温度範囲) |
S-57TZ Sシリーズ ( 車載用) |